そもそも人はなぜ眠る習慣があるのでしょうか。眠らなければ人生を楽しむ時間がもっと増えるのに、眠りなんてものがあるから減ってしまった…誰もが一度はそんなことを考えたことがあるのでは?
人が眠る前には眠くなります。当たり前のようですが、まずはこれがスタート。では、なぜ眠くなるのでしょうか。答えは2つ。「ある程度まとまった時間、起きていたから」と「脳の中の体内時計(生物時計)が“夜の時間”になったから」です。眠くなって、やがて脳の中で眠るスイッチが入ると、眠りに入ります。
まとまった時間起きていると脳の中に睡眠物質のようなものがたまっていきます。「どの程度たまれば眠るスイッチを入れるか」「今は昼か夜か」は脳の中の体内時計が管理しています。脳が「夜だ」と判断したら睡眠物質の蓄積限界量を下げ、睡眠物質の量がそれを超えると眠りのスイッチが入ります。
このため、睡眠物質のたまり方が少ない(まとまった時間起きていない)とか、脳が「夜だ」と判断しない(夜と昼のメリハリがなくなったり、タイミングがあわなかったりする状態)ときは、「夜になっても眠くならない」「寝床に入っても眠れない」「昼間に眠くなる」などの困った状態になります。
では、最初の疑問に戻って、なぜ脳は、眠りのスイッチを毎晩入れて私たちを眠る状態に導く必要があるのでしょうか。睡眠の科学が明らかにした眠りの主な役割は、(1)脳と体を休める(2)脳内の記憶を整理する、の2点。
起きているとき、脳と体は活発に活動しています。定期的に休ませないと壊れてしまうのは人間も機械も同じ。まずは生理的な休息のために眠るわけです。
もう1つの「脳内の記憶の整理」は、起きているときに五感を通じて入ってきた無数の刺激や情報を、脳の「海馬(かいば)」というパーツが、記憶すべきものと捨てるべきものとに分別整理して記憶を定着する作業です。こちらも定期的にこなさないと、脳内の情報がごちゃごちゃと中途半端な記憶としてたまっていき、混乱状態になると考えられます。
この定期的な休息と整理は、体内の24時間体制の時計に合わせるのが合理的。だから毎晩眠りのスイッチが入る、というわけです。
脳と体を、生理と情報の両面から毎晩休めたり整理したりして、新たな1日に向けてリフレッシュさせる機能が眠りです。もし、眠りがなければ人生をよりたくさん楽しめるどころか、人生の“連続運転”すら危うくなってしまいます。