サーカディアンリズムとは何か

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サーカディアンリズムに関わる遺伝子

サーカディアンリズムが時刻の手がかりのない環境でも自律的にフリーランすること、サーカディアンリズムをコントロールする時計のような機構が哺乳類では視交叉上核にあることを、それぞれ「サーカディアンリズム」「生物時計」のページで述べました。
では、視交叉上核生物時計はどのようなしくみで自律的に振動をするのでしょうか。その機構の全貌が解明されたわけではなさそうですが、近年の遺伝子研究によって、しくみの大枠がしだいに明らかになってきました。

微生物、植物、昆虫、動物、それぞれに体内に時計のしくみが備わっていて、時計に関わるさまざまな遺伝子が見つけられています。
一般に、遺伝子が機能するためには、遺伝子に保存された情報(DNAの4種類の塩基配列)がDNAからmRNAに写し取られた(転写)後、mRNAの情報を基にタンパク質が合成(翻訳)される必要があります。この遺伝情報からタンパク質への変換までの転写-翻訳という一連の過程を「発現」と呼びます。したがって、ある遺伝子とそれが発現してできたタンパク質とは一組の対のような関係にあります。
時計に関わる遺伝子では、「時計タンパク質」を作る時計遺伝子と、時計遺伝子の発現を促す「転写因子」を構成するタンパク質を作る遺伝子と、大きく2種類に機能が分かれていて、これらの相互作用によって自律的な振動が発生すると考えられています。これらの遺伝子とタンパク質には名前がつけられていますが、遺伝子の名前は、英文字の斜体で示すのが慣例となっています。

哺乳類の場合、時計遺伝子としては複数のPer遺伝子群など、転写因子に関する遺伝子としてはClock遺伝子とbmal1遺伝子が特定されています。これらの遺伝子の発現によって自律的な振動が発生するしくみについて、大まかには以下のように考えられています。
Clock遺伝子が発現してできるタンパク質(CLOCK)とbmal1遺伝子が発現してできるタンパク質(BMAL1)とが対になって「転写因子」を構成します。この「転写因子」が時計遺伝子と結合して時計遺伝子の発現を促し、「時計タンパク質(Per)」を作ります。
時計遺伝子が発現してできる「時計タンパク質」は、「転写因子」の働きを抑制する作用を持っています。「転写因子」の働きが抑えられると、時間経過とともに時計遺伝子の発現が減少して、「時計タンパク質」の作られる量が減ります。そうすると、時間経過とともに「転写因子」の働きが抑制される作用も弱くなるので、「転写因子」が再び時計遺伝子の発現を促して「時計タンパク質」の作られる量が増えてきます。それでまた「時計タンパク質」による「転写因子」の働きが抑制される、という具合に、繰り返しのループが1周するのです。

なお、視交叉上核の中では、Per遺伝子は昼間に発現が盛んになり、bmal1遺伝子は逆に夜間に発現が盛んになることがわかっていて、上で述べたようなループを反映していると考えられます。Clock遺伝子については、Per遺伝子と同様に昼間に発現がピークになりますが、そのリズムがそれほど強くないことから、Per遺伝子のリズムを主にコントロールしているのはbmal1遺伝子ではないかと考えられています。

これらのしくみでサーカディアン振動が発生するとされていますが、約24時間の周期が作られるしくみや外的な周期に同調するしくみについては、まだよくわかっていません。1990年代以降の遺伝子研究の進歩はめざましく、近い将来、さまざまなリズムの特性が分子のレベルで解明されるようになると期待されています。

 

参考:「生物時計の分子生物学」、シュプリンガー・フェアラーク東京、1999

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